エルサルバドル、ビットコイン準備金を14ウォレットに分散し量子リスクに対応

国家戦略としての再分配

エルサルバドル政府は、国家の ビットコイン （Bitcoin/BTC）準備金6,283BTCを単一アドレスから14の新規ウォレットへ再分配した。

El Salvador is moving the funds from a single Bitcoin address into multiple new, unused addresses as part of a strategic initiative to enhance the security and long-term custody of the National Strategic Bitcoin Reserve. This action aligns with best practices in Bitcoin…

— The Bitcoin Office (@bitcoinofficesv) August 29, 2025

各アドレスの上限は500BTCとし、量子コンピューティングに起因する将来的な脅威への露出を抑えつつ、オンチェーンの透明性を維持する狙いである。発表は 国立ビットコイン事務所 （The Bitcoin Office）がXで行い、準備金の監視には同事務所の公開ダッシュボードを用いる方針である。

分散の背景と量子リスクへの対応

エルサルバドルは透明性確保のため単一アドレスを再利用してきた経緯があるが、支出後のアドレスは公開鍵が露出しやすく、理論上はショアのアルゴリズムを用いる量子攻撃の標的になり得る。

政府は資金を小口に分け未使用アドレスを活用することで、仮に一つの秘密鍵が突破されても損失を限定できると説明。研究機関は、量子計算が楕円曲線暗号を解読可能な段階まで進めば、600万BTC以上、時価総額にして6,500億ドル（約95.7兆円）超が危険にさらされる可能性があると指摘している。

他方で、現行の量子マシンはごく小規模な鍵の解読しか示しておらず、量子リスクは現時点で直ちに顕在化する段階にはないとの見方もある。いずれにせよ、今回の再分配は鍵露出の機会を減らし、アドレス単位の上限設定で被害規模を抑制する実務的な手当てである。

公開鍵露出のリスクとダッシュボード運用

支出が行われると当該アドレスの公開鍵が可視化されるため、露出前に未使用アドレスへ資金を移す運用が望ましい。政府は複数アドレスの残高推移をダッシュボードで公開し、アドレス再利用を避けつつ説明責任を確保する方針である。

国内外の評価と制度整備の広がり

今回の措置は、仮想通貨業界関係者からおおむね肯定的に受け止められている。国立ビットコイン事務所のステイシー・ハーバート（Stacy Herbert）氏は、戦略的準備金を持つ国家としてベストプラクティスを牽引すると述べた。

保管事業者の関係者からも、将来リスクに備える大口保有者の姿勢を評価する声が上がっている。一方で、量子脅威の現実性については冷静な見立てもあり、問題が顕在化する場合でもソフトウェアやハードウェアの更新で対処可能との意見が示されている。

銀行法改正と制度面の進展

立法議会は投資銀行法を改正し、規制対象の銀行が認定投資家向けにビットコインのカストディを提供できる枠組みを整えた。準備金の分散管理と合わせ、国内の制度化を進めつつ機関投資家の参加余地を広げる構図である。背景には、国際機関との対話を含む政策運営があり、同国のビットコイン戦略は保管手法の更新にとどまらず、透明性確保と制度整備を同時並行で押し進める段階に入ったといえる。