Preconfs進化論：「パッチ」から「インフラ」へ、UniFi AVSはBased Rollupのゲームルールにどのような影響を与えるのか？

執筆：Web3 農民 Frank

 

Ethereumの「正統」なスケーリングの終着点と見なされているBased Rollupは、なぜ「評価は高いが実際の利用は少ない」のでしょうか？

一方で、L1に順序決定権を返すことで、メインネットと最も徹底したセキュリティと分散化の整合を実現していますが、他方で12秒にも及ぶ確定遅延を受け入れざるを得ず、高頻度取引やリアルタイム金融シナリオにはほとんど適しません。

そのため、PreconfsはBased Rollupの必要なパッチとして提案され、サブ秒レベルのトランザクションコミットメントで遅延を解消しようとしていますが、長期にわたりPreconfsは小規模かつ非標準化の実験段階にとどまり、統一されたメカニズムや安定した収益がなく、スケール化には至っていません。

最近、Puffer FinanceがリリースしたEthereumセキュリティ基盤製品「UniFi AVS」は、Preconfsを一時的な性能パッチから再利用可能な標準化インフラへとアップグレードし、sub-10msの確定速度を実現し、セキュリティと経済的インセンティブの面で制度的設計を導入しようとしています。

本稿では業界オブザーバーの視点から、UniFi AVSのコア機能、技術的アプローチ、エコシステムへの影響を分解し、これがBased Rollup、さらにはより広範なEthereum Rollupエコシステムの重要な変数となり得るかを論じます。

1. UniFi AVS：Preconfsはもはや「パッチ」だけではない

今回のアップグレードの重要性を理解するには、まずBased Rollupのコアロジックを振り返る必要があります。

Ethereumのスケーリングストーリーにおいて、Based Rollupは順序決定権をL1バリデータに返すことで、セキュリティと分散化の面でメインネットと完全に整合しますが、同時に避けられないトレードオフももたらします——メインネットのセキュリティを継承する一方で、約12秒のブロック確定遅延も引き継ぐことになります。

このため、Pre-confirmation（Preconfs）はBased Rollupの必要なパッチとなり、トランザクションが実際にL1に提出される前に、ユーザーにトランザクション実行のコミットメントを事前に提供します（詳細は《Puffer UniFi AVSを理解する：PreconfsからEthereumの次の10年へ？》を参照）。Based Rollupの潜在能力を十分に発揮するには、許可不要で中立かつ柔軟なPre-confirmationサービスの実現が不可欠です。

しかし、これまで長い間、Preconfsは「小規模工房」段階（非標準化・P2Pソリューション）にとどまり、少数のノードやプロジェクトが独自に運用し、統一基準や安定した収益モデルがなく、Preconf担当ノードがオフラインまたは悪意を持った場合、トランザクションが無効になったりMEV攻撃に遭ったりするリスクがあり、信頼性や持続可能性に大きな課題がありました。

PufferがリリースしたUniFi AVSは、この課題に対する体系的なソリューションです。Preconfsを一時的なパッチと見なすのではなく、呼び出し可能なインフラ層へとアップグレードし、PreconfsをAWSのような標準化クラウドサービスとして再構築することがコアアイデアです。

具体的には、UniFi AVSは3つの主軸から出発し、Based Rollupをより高速にするだけでなく、持続可能な収益を実現し、セキュリティメカニズムで制度的な保証を提供します：

• パフォーマンス面：トランザクション確定をsub-10msに圧縮し、Solanaや中央集権型取引所に匹敵する即時利用体験を提供；
• 経済面：プロトコルレベルの収益分配メカニズムにより、Rollupが「L1のために働く」だけでなく、バリデータやGatewayと収益を共有；
• セキュリティ面：130億ドル相当のRestaked ETHによる担保とSlashingメカニズムにより、「口約束」を「コストを伴う契約」に変え、制度的な制約を形成；

開発者やRollupプロジェクトにとって、UniFi AVSの登場は、複雑な順序決定や確定ロジックを自ら設計・維持する必要がなくなり、AWSクラウドサービスのように、検証済みのPre-confirmationインフラを直接導入し、即時利用・必要に応じて拡張でき、より多くのリソースをプロダクトやユーザー層に投入できることを意味します。

このモジュール化設計により、Preconfsはさらにプロダクト化され、波及効果が期待できます——Rollupプロジェクトだけでなく、今後はウォレット、DApp、上位プロトコルも標準化APIを通じて接続し、「即時確定＋経済的整合＋セキュリティ担保」の能力を享受し、「速さと安定性」をEthereumエコシステムの公共基盤サービスに変えることができます。

この観点から見ると、UniFi AVSはPreconfsを単なる性能パッチの位置付けから、パフォーマンス・収益・セキュリティの3要素を一度に標準化し、Ethereumスケーリングの中間層インフラへと進化させ、Based Rollupのスケール化実現に持続可能な道を敷いています。

注目すべきは、PufferはUniFi AVSの適用範囲がBased Rollupに限定されないことも強調しています。設計上、そのレジストリメカニズムはあらゆるOP Stack Rollupにもsub-10msの即時確定能力を提供でき、今後さらに多くのRollupアーキテクチャをサポートする予定です。つまり、クロスアーキテクチャの可能性を持つ汎用Pre-confirmationインフラとして位置付けられています。

もちろん、すべてのRollupがSequencerの収益をAVSに譲渡するかどうかは不確実であり、初期段階では難しいと言えます——そもそもSequencerは単なる技術問題ではなく、利益分配が深く絡む問題だからです：

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したがって、Preconfsが最終的にRollupエコシステム全体の公共標準に進化するのか、主にBased路線にサービスを提供するのかは、技術路線の選択だけでなく、ビジネスモデルや利益分配の駆け引きでもあり、今後数年にわたり継続的に観察すべき課題です。

2. Preconfsはどのように標準化インフラへ再構築されるのか？

客観的に言えば、Rollupの概念が提案されて以来、Ethereumスケーリングに欠けていたのは概念ではなく、エンジニアリングによる実装能力でした。

結局のところ、ある技術が巧妙な「機能」から堅牢な「インフラ」へと進化するには、明確なサービスコミットメント、信頼できるセキュリティ保証、持続可能な経済モデルという3つのコア条件を満たす必要があります。

言い換えれば、技術的コンセプトから「エンジニアリング」実装へと進むことで、初めてスケール化運用の条件を備えることができ、PufferのUniFi AVSの考え方もこれとほぼ同じです——Preconfsを断片的な小規模試行から、再利用可能・拡張可能・経済的インセンティブを備えたインフラへと再構築します。

つまり、Preconfsを一部ノードの「一時的なコミットメント」ではなく、標準化されたネットワークサービスとして設計するにはどうすればよいか、ということです。 

1. Execution Preconfs： 「ブロックインクルージョン保証」から「実行保証」へ

まず、Inclusion PreconfsからExecution Preconfsへのアップグレードが実現されました。

従来のInclusion Preconfsモデルでは、ユーザーはトランザクションがブロックにパッケージされることだけが保証され、実行時の状態は保証されません。そのため、ユーザーは価格スリッページやMEVフロントランニングに遭う可能性があります。

一方、Execution Preconfsはさらに「実行保証」へと進化し、ユーザーが提出した時点の状態でトランザクションが実行されることを保証します——ユーザーが注文を出した瞬間に状態がロックされ、その状態でのみトランザクションが実行され、そうでなければ成立しません。

例として、ETHを購入し、価格が4400 USDCだった場合：

• Inclusionモデルでは、実際の実行時に市場価格が4410 USDCになっていても取引は成立しますが、約定価格は期待した4400ではありません；
• Executionモデルでは、市場がどう変動してもシステムは4400 USDCの約定価格を保証し、この条件が満たされる場合のみ取引が実行されます；

これにより、Preconfsは「事前入場券」から「確定的な約定」へと進化し、ユーザー体験が大幅に向上し、DeFi、デリバティブ、決済など価格に敏感な金融アプリケーションにより高い信頼性を提供します。

2. Gatewayアーキテクチャとfrags技術：遅延を10ミリ秒未満に圧縮

PufferはCollateral-backed Gatewayアーキテクチャ（Gattacaチームが初めて提唱）を導入し、L1 proposerがPre-confirmation実行権をより専門的なGatewayに委託できるようにしました。

さらに、frags（ブロックフラグメント）技術とlookaheadメカニズムを活用し、Gatewayは正式なブロック生成前にトランザクションを事前処理し、状態切り替えの空白期間を短縮します。理論上、最適な構成下ではトランザクション遅延を10ミリ秒（sub-10ms）未満にまで下げることができます。

これにより、ユーザー体験は理論上Solanaなどの高性能パブリックチェーンのレベルに到達します。

3. Restaked ETHによるセキュリティ担保：「コストを伴う」コミットメントへ

従来のPreconfsはノードの「自発性」に大きく依存しており、オフラインや悪意があった場合、ユーザーにはほとんど補償メカニズムがありませんでした。

Pufferのアップグレード版はEigenLayerの再ステーキングメカニズム（Restaking）を通じて、各Gatewayの背後にバリデータがステークしたETHによる担保（段階的導入）を設けています——ノードが非アクティブになると1ETHが没収される可能性があり、悪意あるMEV抽出やコミットメント違反の場合は1000ETH規模のSlashingが発動する可能性があります。

PoSのペナルティとは異なり、Preconfの没収ETHはPreconfサービスを利用したユーザーに補償され、経済的整合性を直接強化します。従来ノードの信用に依存していたソフトコミットメントを、明確なSlashingメカニズムによるハードコミットメントに変え、制度的な制約力を大幅に高めます。

同時に、PufferはCanonical Preconf Gateway Registryを設立し、すべてのGatewayが秩序ある公開・検証可能な登録体系に入ることを保証します。

4. プログラム可能な収益分配：制度化された多者価値配分

スピードとセキュリティだけでは不十分であり、Preconfsがインフラとなるには持続可能な運用が必要です。

そのため、アップグレード後のUniFi AVSにはRewards Distributorが内蔵され、Rollupチーム、Ethereum proposer、Gatewayプロバイダー間で柔軟に収益を分配でき、プロトコルレベルでプログラム可能な収益分配を実現します：

• Rollupチーム：一部のトランザクション手数料を保持し、「L1のために働く」だけでなくなる；
• Ethereum proposer（バリデータ）：Preconfsの提供で追加収益を得る；
• Gatewayプロバイダー：ネットワーク運用でインセンティブを受け、サービスの安定性を確保； 

この収益分配はもはや一時的な取り決めではなく、プロトコルに書き込まれ自動実行される制度となり、Rollup・バリデータ・Gateway三者の経済的整合（Economic Alignment）による長期的なループを形成します。

この多次元的なメカニズム設計こそが、Preconfsが単一のソリューションからスケール可能で信頼できる公共インフラへと進化する鍵です。

3. 多者間の駆け引きにおける受益者マップ

あらゆるインフラのアップグレードは、単なる技術進化にとどまらず、利益構造の再分配でもあります。

UniFi AVSの特筆すべき点は、パフォーマンス・セキュリティ・経済的インセンティブを一体化し、複数のエコシステム関係者が同じメカニズムで価値を見出せることです——Rollupプロジェクト、Ethereumバリデータ、開発者、最終ユーザーまで、Preconfをパッチから持続可能なモジュール型サービスへと進化させ、すべての参加者がより強固な船で利益を得られるようにします。

まず当然ながらRollupプロジェクトは、パフォーマンス＋収益の両方を手に入れます。

従来、Based Rollupは「遅くて稼げない」と批判され、特に経済モデルではほぼすべての利益をL1バリデータに譲っていましたが、UniFi AVSのExecution Preconfsにより、Rollupはsub-10msの確定速度を即時導入でき、ユーザー体験が大幅に向上します。

同時に、プロトコルレベルの収益分配メカニズムにより、Rollupチームは一部の経済的利益を保持でき、外部補助金に完全依存する必要がなくなります。プロジェクト側にとっては、スピード向上＋収益共有の二重の恩恵です。

次にEthereumバリデータ／Restakerは、新たな収益源を得ます。

L1バリデータはPreconfsの直接的な実行者であるため、UniFi AVSに参加することで、従来のブロック生成報酬に加えて新たなPreconfサービス収益を得られます。

また、Restaked ETHはセキュリティ担保を提供するだけでなく、バリデータの収益機会も増やします。これによりETHステーキングの魅力が高まり、Ethereum全体の経済的セキュリティが強化され、バリデータは単なるノード運用者から「付加価値サービス提供者・追加収益獲得者」へと進化します。

さらに、Gatewayプロバイダーも今回のアップグレードで正式に制度化されました。

PufferはCanonical Gateway Registryを設立し、Gatewayをネットワーク内の標準化ノードとし、一時的な役割にとどまらせません。Gatewayは委託権を得た後、frags技術とlookaheadメカニズムを運用し、10ミリ秒未満のPre-confirmationを実現します；

そのサービスは経済的インセンティブとSlashingメカニズムに直接結びつき、収益もコストも伴います。これによりGatewayは「ボランティア」から本物のインフラサービスプロバイダーへと変わります。

同時に、開発者はより低い参入障壁と高いコンポーザビリティを得られます。

従来、開発者がRollup上で即時確定を実現するには、複雑なメカニズムを自作する必要があり、時間もかかり標準化も困難でしたが、アップグレード後のUniFi AVSはモジュール化APIを通じて、クラウドサービスのように即時確定能力を直接導入できます。

DEX、デリバティブプロトコル、高頻度のGameFiアプリなど、すべてがsub-10ms確定による体験向上を迅速に享受でき、インフラ構築コストを下げ、MEV盗難リスクも減少し、開発者はアプリケーション層のイノベーションにより集中できます。

最後に一般ユーザーは、最も直感的な受益者であり、Ethereum Rollup上で初めてSolanaレベル、さらにはCEXに近い滑らかな体験を得られます：

• スピード面では、トランザクション確定時間が12秒から10ミリ秒に短縮され、体験は中央集権型取引所に匹敵；
• 確定性面では、Execution Preconfsがプロトコルコミットメントレベルで価格ロックを保証し、スリッページやフロントランニングを回避；
• セキュリティ面では、Restaked ETHの担保とSlashingメカニズムによりコミットメントに「コスト」が生じ、ユーザーが違約された場合は補償を受けられる； 

より高い視点から見ると、Puffer UniFi AVSのアップグレードは単なるプロダクト進化ではなく、Preconfsの業界標準化を推進し、パッチからインフラ、さらにはEthereumの標準化中間層サービスへと進化させています。

これにより、Based Rollupが本当に「速く、稼げて、安全」という可能性を持つだけでなく、EthereumをSecurity Settlement Layerとしての長期的なストーリーも強化されます。

最後に

過去5年間のEthereumスケーリングの歩みを振り返ると、Rollupは間違いなく主軸でしたが、パフォーマンス・経済・セキュリティの三者間で本当に実現可能なバランス点を見つけることは、「不可能な三角形」として常に未解決でした。

特に、Based RollupというEthereumの「正統スケーリング路線」は、スケール化・商業化運用の最後のピースで長らく足踏みしており、客観的に見て、今回PufferがリリースしたUniFi AVSは、このピースを埋めるための高度に実現可能な試みの一つと言えます。

さらに深い意味としては、モジュラー型ブロックチェーンの未来に明確な「終着点」の可能性を描いています：あらゆる新興Rollupは車輪の再発明をせず、UniFi AVSの上に直接構築することで、Solanaに匹敵するパフォーマンス体験、Ethereumメインネット級のセキュリティ、自己完結型の経済モデルを迅速に獲得できます。

ただし、最終的に業界コンセンサスとなるかどうかは、設計の堅牢性やオープン性だけでなく、複雑なRollupエコシステムと多者間の利益駆け引きの中で最適なバランス点を見つけられるかにもかかっています。

したがって、業界にとっては、今後1～2年でBased Rollupストーリーが本当に成熟するかどうかを測る重要な観察ウィンドウと言えるでしょう。