カナダがゼルトックスに1億7,690万カナダドルの罰金

仮想通貨企業への過去最大級の制裁が確定

カナダ金融当局は、仮想通貨プラットフォームCryptomus（クリプトマス）を運営するゼルトックス・エンタープライズ（Xeltox Enterprises Ltd.）社に対し、AML（マネーロンダリング防止）法違反で1億7,690万カナダドル（約193億円）の 罰金 を科した。

今回の行政制裁は同国史上最大規模であり、仮想通貨業界におけるコンプライアンス強化の必要性を浮き彫りにした。

FINTRACがゼルトックスに前例のない罰金を科す

FINTRAC （カナダ金融取引報告分析センター）は、ゼルトックスが1万カナダドルを超える仮想通貨取引1,518件を報告せず、さらにイラン制裁対象国からの7,557件の取引を届け出なかったと 指摘 した。

これらの未報告取引の一部は、児童性的搾取や詐欺、ランサムウェア、制裁回避などの犯罪行為と関連していたとされる。FINTRACのサラ・パケ（Sarah Paquet）CEO（最高経営責任者）は「国家安全保障上の重大な懸念であり、前例のない執行措置を取らざるを得なかった」とコメント。同局は今回の違反を「コンプライアンス監視の完全な崩壊」とし、重大な不遵守行為に対して厳格な罰金を科す判断は不可避だったと説明している。

ゼルトックスは以前から規制上の問題を抱えていた。2024年5月には BCSC （ブリティッシュ・コロンビア証券委員会）が同社を無認可取引所として認定し、取引活動を一時停止する命令を出している。こうした経緯を踏まえると、今回の処分は一連の違反行為に対する是正措置としての意味合いが強い。

今回の罰金額は、昨年KuCoin（クーコイン）運営会社に科された2,000万カナダドル（約21.8億円）を大幅に上回り、従来記録の約9倍に達した。FINTRACは「仮想通貨企業によるAML義務違反をこれ以上看過しない」との姿勢を鮮明にしている。

カナダ政府が金融犯罪対策を強化へ

この制裁は、カナダ政府が進める金融犯罪対策の強化と軌を一にするものだ。マーク・カーニー（Mark Carney）首相とフランソワ＝フィリップ・シャンパーニュ（François-Philippe Champagne）財務相は、オンライン詐欺対策を目的に銀行法の改正を進めており、金融機関に対し顧客の同意確認や送金上限設定を義務づける方針を発表した。

政府はまた、AI（人工知能）を悪用した詐欺や不正送金の急増を背景に、2026年初頭までに仮想通貨追跡や盗難資産回収を専門とする国家金融犯罪対策機関を設立する計画を明らかにしている。カナダ詐欺対策センターの調査によれば、国民の年間被害額は6億4,300万カナダドル（約702億円）に達しており、実際の損失はその数倍に上るとみられる。

こうした中で行われた今回の制裁は、仮想通貨業界におけるAML遵守の欠如に強い警鐘を鳴らす事例となった。FINTRACをはじめとする当局は、業界全体に対しより厳格な監視を行う方針を示しており、カナダ市場は今後大きな転換期を迎える可能性が高い。