Bittensor創設者Jacobとの対談：マイニングをAIに応用、TOP3サブネットは中国チームが構築

ゲスト： Jacob Robert Steeves、Bittensor 創設者
インタビュー：zhou & chilli、ChainCatcher

 

近年、分散型人工知能はブロックチェーンとAI技術の融合という最先端分野として、世界中のテクノロジーコミュニティから注目を集めています。Bittensor（TAO）はオープンソースプロトコルとして、ビットコイン型の“マイニングインセンティブ”メカニズムをAI計算に応用し、ブロックチェーン上で推論、トレーニングなど多様なサブネットとプロバイダーが競争し、貢献度に応じて報酬を得る仕組みを構築しています。

CoinGeckoのデータによると、BittensorトークンTAOは2023年3月に取引所に上場し、記事執筆時点での価格は423ドル、時価総額は約40億ドルで、暗号資産の中で42位にランクインしています。最近、TAO財庫会社TAO Synergies Inc.は1100万ドルのプライベートファンディングを完了し、投資家にはTAO戦略アドバイザーのJames Altucherやグレースケールの親会社DCGが含まれています。

今回のChainCatcher独占インタビューでは、Bittensor創設者のJacob氏と対話し、彼の技術的ビジョン、Googleから起業に至るまでの心の軌跡、そしてBittensorがどのように「インセンティブコンピューティング」を通じて従来のAIの壁を打破するかについて深く掘り下げました。

 

Googleから分散型AIへ：BittensorはマイニングをAIに応用したもの

ChainCatcher：ここ数ヶ月、Bittensor（TAO）が米国で大きな注目を集め、アジアのコミュニティでも急速に盛り上がっていることに気づきました。今回の対話を通じて、より多くの読者にBittensorやあなた自身の「分散型AI」の未来に対する考えを知ってもらいたいと思います。まずはあなたのバックグラウンドについてお話しいただけますか？多くの読者はあなたがGoogleでソフトウェアエンジニアをしていたことを知っていますが、なぜGoogleを離れて起業したのですか？その経験で最も影響を受けたことは何ですか？

Jacob：私はカナダのバンクーバーにあるサイモンフレーザー大学（Simon Fraser University）で数学とコンピュータサイエンスを学び、卒業後はDARPAの請負業者でブレイン・マシン・インターフェースチップに関わりました。私の指導教官（同時に会社の創設者）はビットコインの初期サポーターで、「エネルギー/熱力学計算」などの概念に触れさせてくれ、ビットコインを本質的に理解するきっかけとなりました。

2015年からはビットコインとAIの両方に深く取り組みました。この2つは本質的に相性が良いと感じています。なぜならAIの核心はフィードバックループの研究（バックプロパゲーション、遺伝的アルゴリズム、強化学習など）であり、ビットコインは最初のプログラム可能な経済的フィードバックループだからです。その後、Googleで機械学習エンジニアとして働きながら、余暇にBittensorを開発し、2018年にフルタイムでBittensorに専念、2021年にメインネットをローンチしました。

Google在籍時にはちょうど「Attention Is All You Need」（Transformer）論文の発表を目の当たりにし、GPTなどの大規模モデルの指数関数的な発展を後押ししました。現場のチームからはパラメータサーバー、モデル並列、データ並列など分散型機械学習の実践を多く学びました。これらの経験は後にBittensorの計算アーキテクチャを構築する上で非常に重要でした。

ChainCatcher：先に進む前に、Bittensorについて簡単にご紹介いただけますか？

Jacob：もちろんです。Bittensorはビットコイン型のマイニングメカニズムをAIに応用したオープンプロトコルです。プログラム可能な経済インセンティブを用いて、分散した計算力、モデル、データ、アプリケーションを公正な市場として組織します。BittensorはネイティブトークンTAOを持つブロックチェーンで、約128のサブネット（Subnets）が稼働しており、推論、トレーニング、強化学習、コードエージェント、ストレージ、予測/トレーディングシグナルなど多様なタスクで協調・競争しています。AIの本質は計算問題であり、ビットコインは「インセンティブ＋競争」が分散資源を効果的に調整できることを証明しました。私たちはこの原理を知能生産に移植しただけです。

利用者の視点から見ると、開発者はサブネットを立ち上げたり参加したりして、モデルや計算力を提供し、その成果に応じて継続的に報酬を得られます。需要側はネットワークを通じて推論、計算力、AutoMLや予測シグナルなどのサービスを購入できます。簡単に言えば、Bittensorは「マイナー—報酬—コンセンサス」のパラダイムを「有用なAI供給—市場報酬—ネットワークコンセンサス」に変えたのです。

 

中国開発者へのアプローチ：最強の競争土壌と新たな供給源

ChainCatcher：今回が初めての中国訪問ですか？なぜこのタイミングで中国で講演ツアーを行うことにしたのですか？

Jacob：初めてです。今はペルーに住んでいますが、これまで海外ツアーをしたことはなく、今回はBittensorについて話すために特別に中国に来ました。まず、BittensorはビットコインマイニングをAIに応用したものであり、中国は世界で最も急速に成長し、最も強力な人工知能分野の国の一つです。ビットコインマイニングが合法だった時期、中国の計算力シェアは50%を超え、現在でも世界の90%のチップを生産しています。

中国のネットワーク構築における技術力を非常に尊敬しており、より多くの中国開発者がBittensorネットワークの構築に参加し、ネットワーク規模の拡大に貢献してほしいと考えています。

Bittensorは分散型、パーミッションレス、透明性のあるオープンネットワークであり、どの地域からでも公平に参加できます。これは現在高度に集中化されたAIインフラに対する有意義なヘッジとなります。すでにいくつかの方向性で実現可能性を証明しています。サブネットを通じてGPUリソースやモデルサービスを市場に導入し、価格や効率で中央集権型ソリューションと競争しています。中国に来た目的は、これらの道筋をより大きな開発者エコシステムに落とし込むことです。

ChainCatcher：今回の旅でアジアの開発者や投資家に伝えたい重要なメッセージは何ですか？印象に残った中国のプロジェクトやコミュニティはありますか？

Jacob：あります。Bittensor内ではよく聞く言葉があります。「中国のマイナーがあるサブネットに参入すると、競争が一気に激化し、元々いた人たちの多くが撤退を選ぶ」——これは完全に予想通りで、中国の競争強度は本当に驚異的です。大学の組織やトレーニング方法からして、世界で最も競争力のある集団の一つです。だからこそ、中国とBittensorは本質的に相性が良いと感じています。

今回伝えたいのは、これは全く新しい、公平な経済プラットフォームであり、中国のエンジニア、ビルダー、マイナーが本当に生産的な貢献をできる場所だということです——しかも公開・透明で、公平なルールのもとで。具体的なプロジェクトで言えば、Bittensorで最大規模のサブネットの一つであるAffineは中国の開発者によって構築されており、全ネットワークで最も競争力のある仕組みの一つになりつつあります。こうしたチームがもっと増えることを期待しています。中国のエンジニアのレベルは本当に高く、他に並ぶものがありません。

ChainCatcher：中国、香港、シンガポールのWeb3やAIにおける独自のポジションについてどう思いますか？

Jacob：現時点では、中国、シンガポール、東アジアの企業がオープンソース人工知能の潮流をリードしています。DeepSeekのようなトップクラスのオープンソースモデルは中国チームから生まれていますし、香港やシンガポールは規制や資本面で柔軟性があり、産業化や国境を越えた協業がしやすいです。全体として、アジアは「オープンモデル＋エンジニアリング実装」を最前線に押し上げており、これは分散型AIにとって非常に重要な組み合わせです。また、中国のトップ大学である北京大学や清華大学も学術・知識の進歩に大きく貢献しています。

ChainCatcher：Bittensorには約128のサブネットプロジェクトがあるとおっしゃいましたが、リソース配分やエンジニアの分布について教えていただけますか？

Jacob：上位3つのサブネット（Subnet Ecosystem Projects）はすべて中国のチームによって構築されており、これは非常に意義深いことだと思います。Bittensorは匿名プラットフォームですが、多くのアジアチームや計算力が参加していることは確認できます。例えば、LiumはGPUリソースを提供するトップサブネットで、パーミッションレスな市場を作り、誰でもGPU計算力を提供でき、ネットワークを通じてGPUリソースにアクセスできます。多くの中国のマイナーがこれらのチップを提供しており（これらのマシンのIPアドレスからアジアに存在することが確認できます）、これらのリソースをグローバル市場に持ち込んでいます。

ChainCatcher：現在、投資機関との接触はありますか？多くの投資ファンドや投資会社がBittensorに興味を持っていると思いますが。

Jacob：はい、投資家からの連絡はよくあります。彼らは参加したい、TAOを購入したいと考えています。ただ、私はこれらの業務を直接担当しているわけではなく、私はエンジニアです。Bittensorのネットワークはオープンで、市場も流動的です。そのため、私たちは皆さんにTAOのセカンダリーマーケットで直接参加することを勧めています。それが最も公平な方法であり、誰もが同じ方法で市場に入ることができます。実際、投資会社からの問い合わせは多いですが、私たちは皆さんが公平に市場に参加することを望んでいます。

ChainCatcher：今後、Bittensorと従来のインターネット大手（OpenAI、アリババ、バイドゥなど）との協業の可能性はありますか？

Jacob：はい、可能性はありますが、理念が一致するかどうかにかかっています。米国の一部の中央集権型ラボはおそらくあまり興味を持たないでしょう。彼らは統合と管理を重視しますが、私たちはオープン性とパーミッションレスを強調します。逆に、DeepSeek、Kimi、Moonshotのようなよりオープンなチームは、リソースをBittensorに接続し、ネットワーク上でサブネットを立ち上げてマネタイズしたり、ネットワークの供給を利用したりできます。これは時間の問題だと思います。協業するか、私たちの分散型トレーニングのやり方を採用するかのどちらかです。もしMoonshotと一緒に本当に分散型のトレーニングを実現できるなら、私たちは大歓迎です。

 

Bittensorの本質：暗号経済インセンティブによる人工知能研究

ChainCatcher：最近あなたはXで、Crypto + AIは浅い言い方で、本当に重要なのはincentive computingだと述べていました。多くの人がBittensorを「AIモデルアグリゲーター」と理解していますが、あなたはむしろ「インセンティブ型ネットワーク」であることを強調しています。読者のために、Bittensorと従来のアグリゲーションプラットフォームの最大の違いは何か、「分散型」が何を変えたのか説明していただけますか？

Jacob：「AIモデルアグリゲーター」という理解は正しくありません。Bittensorの核心は「プログラム可能なインセンティブ」を<AIの学習プロセスに組み込むことです。誰がより有用な推論、トレーニング、ツールを提供したかによって、より多くの報酬を得る仕組みであり、「モデルを積み重ねる」こととは全く異なります。過去15年のAIのブレークスルーは、フィードバック/報酬の適応的学習（BP、RLなど）から生まれました。私たちは通貨とインセンティブをこの仕組みに直接組み込み、市場シグナルで供給と品質を継続的に最適化しています。

「分散型」の意義はパーミッションレスな参加と単一障害点への耐性です。つまり、誰でもサブネットを立ち上げて競争に参加でき、良い供給はインセンティブによって拡大され、悪いものは自然に淘汰されます。同時にリソースが分散し、ルーティングが柔軟になることで、サービスが単一障害点に強くなります。しかし、私たちの目標は「分散型のための分散型」ではなく、インセンティブ駆動で有用な計算を大規模化することです——これがBittensorと従来のアグリゲーションプラットフォームの根本的な違いです。

一方で、いわゆるCrypto + AIは暗号資産をAIに応用する、あるいはAIを暗号に応用するだけで、私たちがやっていることの核心には触れていません。私たちが実際にやっているのは、暗号経済インセンティブを使って人工知能研究を行うことです。

ChainCatcher：数日前、AWSが大規模にダウンし、多くのAIサービスが停止しました。これについてどう考えますか？

Jacob：この出来事は分散型の価値を証明したと思います——それは単一障害点への耐性です。Bittensorはダウンしませんでした。なぜなら分散型のリソース配分に依存しているからです。これが私たちの強みの一つです。ただし、この出来事は多くの「分散型」エコシステムが実際には完全に分散されていないことも証明しました。実際、ダウン後に復旧できなかったプロジェクトもありました。Bittensorは分散型をBittensorのコア目標としているわけではありません。もちろん、技術コアには検閲耐性メカニズムを使っていますが、それがBittensorの根本的な原動力ではありません。

 

経済とビジョン：TAO半減期、プロトコル収入源、予測市場と5年目標

ChainCatcher： 2025年はTAOの初めての半減期ですが、今回の半減がエコシステム内の開発者やバリデーターの行動にどのような影響を与えると思いますか？

Jacob：実際、半減がBittensorに与える唯一の影響は供給が引き締まることだけだと思います。しかし、ネットワークの基本的なインセンティブメカニズムには影響しません。ネットワークには依然として大きな経済的インセンティブがあり、開発者がプラットフォーム上で構築することを促しています。

ChainCatcher：Bittensorプロトコル層の収入は主にどこから来ていますか？

Jacob：主に推論（inference）、計算力（compute）、AutoML（自動化機械学習）の販売、およびシグナルを予測市場に販売することから得ています。

ChainCatcher：先ほど予測市場について言及されましたが、現在の予測市場がWeb3エコシステムにおける地位やビジネスモデルについてどう考えていますか？

Jacob：とても良いアイデアだと思います。もしKalshiやPolymarketのことを指しているなら、それらは本物のフィンテックアプリケーションの一つであり、大規模消費者向けの初のアプリケーションだと思います。それは非常に意義があり、人間の働き方を深く変えました。

ChainCatcher：最後に、Bittensorのビジョンについてお聞かせください。5年後を見据えて、Bittensorに関するどんなニュースタイトルを見たいですか？このアプリケーションのビジョンは何ですか？どのように実行する予定ですか？

Jacob：私が最も見たい、そして最も重要なタイトルは：私たちがこの技術を「100万規模」のユーザーの前に届け、真にオープンなインテリジェントサービスを世界中に提供し、ネットワークが持続的に拡大・運営されているというものです。今すでにこの道筋の萌芽が見えています。経済面では、多くのシーンでコスト優位性で中央集権型プロバイダーを打ち負かすことができ、特に推論（inference）で顕著です。現時点で約10万人のユーザーが私たちの技術を利用しています。次のステップは推論層だけでなく、アプリケーション層にも進出することです。

私たちの目標は、世界中の数十億人のユーザーにサービスを提供することです。例えば、RidgesはBittensor上で非常に大きなサブネットで、コードエージェント（coding agents）を開発しており、これらのエージェントは世界中のマイナーによって共同で最適化されています。このような構築方法には明らかな利点があります。価格を大幅に下げることができるのです。なぜなら、私たちは受動的かつ継続的にコストパフォーマンスをグローバルに最適化しているからです。ある中央集権型プロダクトが1000ドルのサブスクリプションで実際には200ドルの価値しか提供しない場合、私たちは10ドルのサブスクリプションで、ネットワーク自身のコストは6ドルに抑えられます。このような経済学的なスケール則により、私たちは世界中にリーチできます。中央集権型AI企業がこれらの基盤技術を採用しなければ、性能、速度、コストで長期的に追いつくのは難しいでしょう。

これが私たちの「ウェッジ」（wedge）です。もしこれらの重要な側面で長期的に優位に立てれば、競争で勝つのは難しくありません。逆に、できなければ話になりません。

同じ理屈で、ビットコインがネットワークレベルで主権国家や中央集権システムを凌駕できたのは、正しい技術原理とメカニズム設計を採用したからです。Bittensorはまだすべての分野でこれを実現できているわけではありませんが、いくつかの具体的な分野ではすでに実現しています。多くの人が日常的にBittensorを利用していることに気づいていません。