お金、コントロール、そして分散化

テクノロジー大手が追い求めているのは収益ではなく、モデル、ナラティブ、思想のコントロールだ。

執筆：The Smart Ape

翻訳：AididiaoJP，Foresight News

「大手テック企業はただ利益を追い求めているだけだ」とよく耳にする。しかし、そう言う人は何も分かっていない。

より深い真実は、これらの巨人たちが追い求めているのは収益ではなく、モデル、ナラティブ、思想のコントロールであるということだ。

世界で最も裕福な人物の一人、Bernard Arnaultはかつてこう語った：

「私は今20億ドルの負債を抱えているが、かつて5万ドルの負債を抱えていた時よりもよく眠れる。」

彼らにとってお金は、それ自体が目的ではなく、単なるツールなのだ。

もしある企業が毎年赤字を出していても、ユーザーの選択、価値観、信念を直接コントロールできるなら、それは決して失敗ではない。唯一本当に重要な「コントロール権」から莫大な利益を得ているのだ。

お金という蜃気楼

私たちは唯一、お金を最終目標と考え続けている存在だ。

しかし、より高いレベルでは、お金は単なるツールに過ぎない。より正確に言えば、コントロールのためのツールだ。

お金は常にこの役割を果たしてきたわけではない。初期の形態では、果物や野菜、商品を交換するための手段に過ぎなかった。

その後、塩や香辛料が登場し、より交換しやすくなった。

さらに後には、希少性と実用性から本当の価値を持つ貴金属や銀貨、金貨が使われるようになった。

その時点までは、お金は本当の価値を表していた。

しかし、その後、私たちは紙幣へと移行した。紙幣自体には内在的な価値はない。その後、さらに抽象的なもの、つまりデジタル通貨、画面上のデータ、クリック一つで無限に印刷できるものへと進化した。

この最新の形態は、その創造をコントロールする者たちに、水、食料、土地、そして今や時間や人間の思想といった本物のリソースを無料で手に入れる力を与えている。

だから、ある企業が帳簿上は赤字でも、あなたの注意、思想、行動を手に入れているなら、何も失っていないのだ。偽りのお金で本物の人間リソースを手に入れているのである。

データが示すのはコントロール、単なる利益ではない

正直に言えば、OpenAI、Google、Anthropicの背後にある数字は狂気じみている。

しかし、もっと狂っているのは、もし目標が利益なら、これらの数字は全く意味をなさないということだ。目標が支配である場合にのみ、意味を持つ。

OpenAIは2025年上半期に約43億ドルの収益を上げ、年換算で100億ドルのランレートに達した。あなたには儲かっているように聞こえるだろうか？

しかし、同じ期間に25億ドルを消費している。1ドル稼ぐごとに1.6ドルを使っているのだ。

さらに83億ドルの資本を調達し、最大400億ドルまで拡大する可能性もある。投資家たちは利益が出ていないことを知っているが、気にしていない。なぜか？

なぜなら、目標は短期的なリターンではなく、世界のAIレイヤーをOpenAIのエコシステムにロックインすることだからだ。

OpenAIはAMDとも数十億ドル規模の契約を結んでいる。これは単にチップを購入するためだけでなく、長期的なGPU供給を確保し、AMDの最大10%の株式を取得するためでもある。それは垂直統治であり、将来のAIが依存するすべての計算力をコントロールすることを意味する。

AIを例に取ると、モデルのトレーニングを完全に支配しているのは3〜4社しかない。

これらのモデルを構築するには、数億、時には数十億ドル規模の計算力とデータが必要だ。

小規模なプレイヤーは競争できず、これらの巨人たちはすべてのAIの「思考」や「発言」の仕方に不釣り合いな影響力を持つことになる。

@MTorygreenはこれをAIの単一文化と呼んでいる：

「みんなが同じ少数のモデルを使うと、オンラインコンテンツは同じトーン、スタイル、視点に収束していく。」

多様性を排除するだけでなく、このシステムは単一の思考様式を生み出している。

まるで、彼らは人々に自分で考えてほしくない、個人的な考えや独立した見解を持ってほしくないかのようだ。

彼らはあなたにナラティブに従い、おとなしい羊のように振る舞ってほしいのだ。

モデルをコントロールすれば、どの声が拡大され、どの声が消され、どの考えが「真実」となるかをコントロールできる。

言論を禁止する必要すらない。多くの意見は、データセットやモデルフィルターによって生まれる前に消されてしまうのだ。

テクノロジーは私たちの「見る」「考える」「信じる」をどう形作るか

大多数のデジタルサービスが同じ少数のモデルに依存しているため、オンライン上の対話は均質化していく。

トーン、論点、さらには「許容されるもの」までもが、これら企業がコード化した価値観に一致し始める。

もしモデルが「安全」「リスク回避」「政治的に正しい」ように最適化されていれば、異論や型破りなトーンは和らげられ、浄化され、あるいは完全に削除される。

これは設計されたソフトな検閲だ。

Tory Greenは完璧に説明している。私たちはもはや混沌としたワイルドなインターネットと対話しているのではなく、

「企業が承認した回答がこだまするエコーチェンバー」なのだ。

新しい言語、マイノリティの視点、文化的なニュアンスを導入しようとする小規模な開発者にはチャンスがない。彼らは同じ計算力、データ、資金を得られない。

要するに、彼らは無から生み出される無限のお金を手に入れることができないのだ。

私たちが最終的にいる世界は、多様な思想の世界ではなく、一つの思想が無数の鏡に反射されている世界だ。

唯一の道は分散型AI

もし問題がモデル、計算力、データの集中コントロールにあるなら、解決策はそれを逆転させることだ。

唯一の道は分散化、つまり計算力、モデル、ガバナンスの分散化である。

GPUネットワークが何千、何万もの貢献者に分散され、どのクラウドや企業にもコントロールされていない状態を想像してみてほしい。

@ionetのようなプロジェクトはすでにこのビジョンを構築しており、コミュニティが計算リソースを共有し、独立系開発者が利用できるようにしている。

一つの巨人が「すべてを支配するモデル」に依存するのではなく、各コミュニティ、文化、言語が自分たちの価値観や世界観を反映した独自のモデルをトレーニングできるのだ。

Tory Greenが主張しているのもまさにこれであり、AIの単一文化ではなく、何千ものユニークでコミュニティ主導のモデルを推奨している。

これらのコミュニティモデルは透明で監査可能、そしてユーザー自身によってガバナンスされるため、バイアスや検閲は企業のブラックボックスの中に隠れることができない。

もちろん、これは簡単なことではない。これらの巨人たちと競争するには同じリソースが必要であり、無限の資本の支援なしではほぼ不可能だ。

しかし、もう一つの力がある。それは集団的な覚醒だ。

十分な数の人々がその利害関係を理解し、彼らの本物のリソース、エネルギー、創造力、協調精神を結集すれば、お金以上の偉大なものを構築できる。

それは困難だ。だが、必要なことだ。

なぜなら、私たちがそうしなければ、このシステムはますます悪化し、世界の本物のリソースをますます消耗させていくからだ。

私たちはすでに、自由意志や想像力さえも吸い取られる段階に来ている。

今反撃しなければ、彼らが次に奪うリソースは何だろうか？