DFINITY創設者ドミニク：Web3マルチチェーン時代、Internet Computerはどこへ向かうのか？

「オンチェーン上では、ソーシャルメディア、ゲーム、メタバースがすべてトークン化されるでしょう。」

編集：黒米

最近、DFINITYの公式TwitterがマルチチェーンをテーマにしたTwitter Spaceを開催し、DFINITY財団の創設者であるDominic Williamsが自身のマルチチェーンに対する理解、Web3に対する見解、そして最近のInternet Computerのマルチチェーン戦略の進展について語りました。Dominicは連続起業家であり、Ethereumコミュニティの初期貢献者でもあります。彼はDFINITY財団を設立し、Internet Computerを分散型クラウドコンピューティング分野のリーダーにすることを目指しています。

以下はSpaceの内容を簡略化したものです。詳細はアーカイブをお聴きください。

司会者：Ethereumの初期には「ワールドコンピュータ」という概念がありましたが、Ethereumと比べてDFINITYは異なる発展の道を歩んでいます。「ワールドコンピュータ」とは何か、説明していただけますか？

Dom：人それぞれ理解は異なると思いますが、私の理解では、現在ほとんどのビジネスロジック、データ、ユーザー体験はブロックチェーン上で動作しています。しかし、ここでの課題は、現行のブロックチェーンは少量のデータしか保存できず、計算や実行能力も限られていることです。

司会者：そうですね、明らかにEthereumはスケーラビリティに限界があり、このビジョンの実現は難しいようです。では、Internet Computerは「ワールドコンピュータ」の解決策となるのでしょうか？

Dom：そう願っています。今、私たちはそれを構築しました。2014年、2015年に時間を戻すと、スマートコントラクトという用語が初めて登場した時、誰もがスマートコントラクトをホスティングできることがEthereumの大きな成果だと認識していました。

ご存知の通り、ブロックチェーンはBitcoinから始まりました。Bitcoinは価値のトークンであり、最初のデジタルゴールドです。しかし、その元々の設計ではスクリプト記述能力が非常に限られていました。トークン残高にアクセス制御スクリプトを追加することしかできません。しかし、そのBitcoinをあるアドレスから別のアドレスに送ると、スクリプトは消えてしまいます。

Ethereumの大きな特徴は、スクリプトがオンチェーンで動作できることです。独自のアドレスを持ち、コード内でより複雑なことを実現できます。実際、DeFiはEthereumに「ワールドコンピュータ」の目標を実現させました。

しかし、私が「ワールドコンピュータ」というアイデアに興味を持った理由は少し違っていて、私は特にDeFiに注目していたわけではなく、「ブロックチェーンで従来のITを置き換える」というアイデア、例えば分散型ソーシャルネットワークの構築に魅力を感じていました。私はスケーラブルなブロックチェーンの構築にますます関心を持つようになり、それは本質的にスマートコントラクトをホスティングできるクラウドのようなものです。しかし、このアイデアを実現するには膨大な研究開発が必要で、完全な納品には予想よりはるかに長い時間がかかります。

これが私たちがInternet Computerを立ち上げた理由です。1000人のスタッフがこれに尽力しました。

Internet ComputerはEthereumとは全く異なり、完全に再構想・再構築されたブロックチェーンであり、私の「ワールドコンピュータ」へのビジョンを体現しています。Internet Computerは大量のデータを保存し、大量の計算を実行できるだけでなく、Chainkeyという新しい技術を導入しており、ブリッジなしで他のブロックチェーンとシームレスに統合できます。

今年初め、Chainkey Bitcoin（ckBTC）がInternet Computer上で初めてリリースされました。今、私たちはInternet ComputerがEthereumと統合できるよう取り組んでいます。ここでの統合はクロスチェーンブリッジを構築することではなく、Internet ComputerノードがEthereumノードと通信・統合できるようにすることです。これはコードレベル、スマートコントラクトレベルでの統合です。分散型で信頼不要、暗号技術に基づいており、一部のクロスチェーンブリッジのようなメッセージ転送などではありません。

司会者：「ワールドコンピュータ」への理解、IT技術スタックを再構築し、ブロックチェーンをコアに据えるという点がとても好きです。Internet Computerについて語るとき、それが多様化することを明確にしています。「ワールドコンピュータ」のビジョンは単一のブロックチェーンではなく、多くの異なるブロックチェーンがシームレスに通信できることです。特定用途のブロックチェーンはユースケースや機能に最適化でき、Internet Computerはそれらの間のゲートウェイとなります。

Dom：私は、時間が経つにつれて暗号業界は最大限に統合されると考えています。何千ものパブリックチェーンが存在し続けるとは思いませんが、アプリケーションチェーンは増えるでしょう。時間が経つにつれて、企業も独自のプライベートチェーンを運用し、それをパブリックチェーンと統合するかもしれません。

では、これら異なるブロックチェーンはどのように協力するのでしょうか？

私たちはBitcoinの「双子」ckBTCを作りました。本質的に、Bitcoinメインネット上のBTCをckBTCアドレスに送ると、ckBTCが手に入ります。一度ckBTCを持てば、別のckBTCアドレスに送ることができます。実際、ckBTCの送信コストはほぼゼロです。例えば、100%オンチェーンのチャットサービスOpenChatで、友人にckBTCの「お年玉」を送ることもできます。

さらに、Internet ComputerとEthereumの統合はより大きな可能性を秘めています。

Ethereumは世界のDeFi基盤であり、インフラは非常に成熟していて、大きなコミュニティもありますが、ご存知の通り、Ethereumの制限は今後も続きます。

もしEthereum上で3.3MBのスマホ写真を保存したい場合、たった21ヶ月で11万ドルかかります。この制限に気づいていない人が多いです。Solanaでも、スマホ写真1枚の保存コストは年間約420ドルです。

したがって、従来のパブリックチェーンはトークンやNFTの保存しかできません。NFTの実際のコンテンツはブロックチェーン上にはなく、リンクだけで、実際はAmazon Web Servicesに保存されています。しかし、開発者はAmazon Web Servicesのユーザー名とパスワードを持っており、ログインしてルールを勝手に変更したり、アカウント内容を変更したりするかもしれません。

ご存知の通り、Bitcoinはあなたに価値の所有権を与えました。これがサトシ・ナカモトのイノベーションです。あなたはBitcoinのデジタル価値を直接所有でき、ハッカーが秘密鍵を盗まない限り、誰もそれを奪えません。BitcoinもEthereumも、秘密鍵を持っていればそれはあなたのものです。つまり、UniswapのようなDeFiプロダクトもBitcoinやEthereumのように本当に分散化でき、人々はガバナンストークンを持つことでそのプロダクトの直接的な所有権を持てます。ソーシャルネットワーク、ゲーム、メタバースも同様に、ブロックチェーン上で構築され、コミュニティによる自治が実現できます。

しかし、私がここで言っているプロダクトは、今日私たちが使っているようなDAppではありません。すべてがAmazon Web Services上に構築されていて、あなたが所有しているのはトークンやデータの断片だけです。本当の所有権は、すべてが完全にブロックチェーン上に構築され、DAOの管理下にあることから生まれるべきです。

Internet Computerには、DAppが直接分散型ガバナンスを行えるインフラ「Service Nervous System（SNS）」があります。ガバナンストークンの保有者として、SNSにソフトウェアアップデートの提案を提出でき、コミュニティが必要とすればそれが推進され、すべてが透明です。開発者、規制当局、ハッカー、その他誰にとってもバックドアはありません。これこそがWeb3の未来だと私は思います。Web3は、ブロックチェーン上で人々にDAppの直接的な所有権を与えるものです。

司会者：素晴らしい回答ですね、Dom。私が注目しているもう一つの点はユーザー体験です。これは明らかに暗号通貨の大規模な普及の障壁です。現在の暗号業界やWeb3では、初心者がDAppの使い方を学ぶのに時間がかかり、ユーザー体験は良くありません。あなたはckBTCについて言及し、それをBitcoinウォレットに送ると自動的に変換されると話しました。母親にBTCをckBTCに変換し、さらにckBTCをBTCに戻す方法を教える必要はありません。彼女はアプリを使うだけで自然にckBTCを体験できます。

Dom：そうです。ユーザー体験も私の「ワールドコンピュータ」ビジョンの一部です。障壁を取り除くことが重要です。Gmailが電話の煩わしさを取り除いたように。

でも、もしメールを送るたびに毎回Metamaskでトランザクションを承認しなければならないと想像できますか？

スマホでMetaMaskアプリを開くと、サブブラウザでDeFiサイトにアクセスし、ウォレットを接続する必要があります。PCでは、まずDeFiサイトを開き、次にMetaMaskのサブウィンドウを開いてウォレットを接続します。こんなユーザー体験は最悪です。

Internet Computerはウォレットレスのアーキテクチャであり、他のチェーンも統合から恩恵を受けて同じ利点を得られます。

まず、Internet ComputerにはReverse Gas Model（リバースガスモデル）という仕組みがあります。

Bitcoin、Ethereum、Solana、Avalancheなどのチェーンとやり取りするたびに、ウォレットで手動でトランザクションを承認し、そのトランザクションのGas支払い額を指定する必要があります。Gasレートはまるで手数料市場のようです。

しかし、Internet ComputerではGasの仕組みが少し異なります。Internet Computer上のスマートコントラクトはCanisterと呼ばれ、従来のスマートコントラクトとは全く異なります。Canisterは自分自身の計算に対して支払いを行います。電気自動車のように、開発者が充電すれば動き、電池が切れれば止まります。再び充電すれば動き出します。これがCanisterの仕組みで、ここでの「電気」やGasはcyclesと呼ばれます。Canisterが計算を実行すると、開発者が予約したcyclesを消費します。この構造は非常に重要で、実際にはユーザーが自分でcyclesを支払うことなくCanisterと直接やり取りできる、つまりウォレットすら必要ないということです。

通常、Internet ComputerのユーザーはDAppとやり取りするのにウォレットは必要ありません。トークンを管理したい場合を除いて。例えば前述のOpenChat。ユーザーはウォレットすら必要なく、数秒でInternet Idenity（インターネットID）を作成し、OpenChatでアカウントを作成すれば、フロントエンドでチャットができます。Internet Idenityは通常Face IDや指紋認証で認証され、とても便利です。そしてさらに重要なのは、リバースガスモデルにより、ユーザーはメッセージ送信にGasを支払う必要がありません。従来のブロックチェーンでは、チャットメッセージごとにMetaMaskウォレットを開いてGasを支払う必要があります。「同意」ボタンを押してメッセージを送るのは耐え難いでしょう。しかしInternet Computerでは、すべてが隠されています。Ethereumもこの利点を活用できます。まずInternet ComputerとEthereumを統合すればよいのです。

実際、それを証明するためにOisy Walletというウォレットを作りました。Internet Computer上で動作しながら、EthereumのERC-20トークンを扱います。このウォレットはウェブページで、すでに公開されており、体験できます。

インタラクションプロセスも改善されています。例えばスマホでMetamaskを使う場合、サブブラウザを開き、その中でDeFiサイトにアクセスしてからウォレットを接続する必要があります。しかしOisy Walletを使えば、スマホブラウザでURLを入力し、別のタブでUniswapにアクセス。ウォレット接続を押してIDをコピーして貼り付ければ、ウォレットが接続され、Uniswapで取引できます。

今、私たちがウォレットアプリをダウンロードできるのは大手テック企業の恩恵によるものです。MetaMaskは過去に何度もChrome Web Storeから禁止されましたし、大手テック企業が今後Web3サービスを禁止しない保証もありません。しかしOisy Walletはスマートコントラクトを通じてブラウザに配信されます。（Internet ComputerのスマートコントラクトCanisterはHTTPを処理できます）

ですので、Internet Computerの利点はユーザー体験だけでなく、より分散化されていることです。

司会者：そうですね、Oisy Walletは良い例です。ブラウザを開くだけで使え、暗号通貨について深く学ばなくても実際のプロダクトを体験できます。リバースガスモデルについて言及されましたが、最近私もこの問題について考えています。市場効率の観点から言えば、誰かがGoogleを過度に使っても誰も怒りませんが、あるチェーンのNFTプロジェクトを使うのではなく別のチェーンのNFTプロジェクトを使うと怒る人がいます。これは「部族主義」や「極端主義」に見えますが、もしかしたらGasの性質によるものかもしれません。実際、あるチェーンのネイティブトークンを持っていないとそのチェーン上のアプリを使えないので、ユーザー体験が下がり、そのチェーンに完全に集中しなければなりません。

Dom：ご存知の通り、現在のブロックチェーンが関わる主なビジネスモデルは、実際には分散化とはあまり関係なく、あなたが創造したものに関することが多いです。魅力的なユースケースを作り、コミュニティをプロジェクトに熱中させ、できればエコシステムに参加して貢献してもらう。その後、トークン価格が上昇し、財団や投資機関がさらなる投資のために連絡してきます。ユーザーをウォレットに「ロック」することは「フライホイール」の重要な部分でした。

もしBitcoinの初期段階で部族主義や極端主義がなければ、Bitcoinは決して離陸せず、EthereumやInternet Computer、その他のものも生まれなかったでしょう。私はこの部族主義には一定の積極的な意味があると思います。

しかし同時に、Gasの問題を考えるとき、「Web3が何十億人をどうやって惹きつけるか」を考えるべきで、暗号エコシステムの数百万人だけをターゲットにすべきではありません。

最終的にWeb3はNFTのような単純なものを超え、本当の分散化を提供し、人々がオンチェーンのすべてのものの真の所有者になることを目指しています。多くの人が、一部のブロックチェーンがAmazon Web Servicesに依存していても気にしないと言います。私は実は異議があります。彼らが気にしない理由は、何が起きているのか理解していないからだと思います。例えば主流メディアの記者が、ブログやメディアサイトをあるブロックチェーン上に構築したとき、自分たちが分散化していると思うでしょう。しかし、そのブロックチェーンにはAmazon Web Servicesのパスワードを持つ「内部者」がいて、本当の所有権を握っています。しかし、時間が経つにつれて、人々はより多くの教育を受け、洞察力を持ち、このことに気づくようになると信じています。

Web3が今の位置から何十億人のユーザーを惹きつけるには、もっとクリエイティブなことをしなければなりません。NFTsだけでは今の高さを維持するのが精一杯です。

Web3の未来がどのようなものになるか想像してみてください。オンチェーン上では、ソーシャルメディア、ゲーム、メタバースがすべてトークン化されます。Internet Computerには分散型ショート動画プラットフォームHot or Notがあり、Web3版Tiktokのようなものです。野心的なトークンエコノミーモデルも持っています。動画を作成した人は報酬を得られ、誰でも「その動画が人気かどうか」に賭けることができます。

Web3は従来のウォレットでは実現できません。なぜならトークンに関わるイベントが多すぎるからです。OpenChatでメッセージを送るたびに煩雑なトランザクションを承認し、Gas代を指定することはできません。

今、私たちが開発したOyis WalletはEthereum DeFiウォレットとして使えますが、ユーザーはウォレットの存在を感じません。walletlessの特性を活用し、開発者はより良いゲームやソーシャルメディアを創造できます。ウォレットを介さずにトークン化を実現し、ユーザーは意識せずにWeb3とやり取りできます。

司会者：Hot or Notは素晴らしい例ですね。TikTokの分散型代替品であり、トークン化も組み合わせています。ブロックチェーンは従来の技術スタックでは解決できない問題を解決できるのでしょうか？

Dom：私は、あらゆるオンラインサービスやWebアプリケーションがトークン化できると考えています。

もちろん、Amazon Web Servicesを使ってトークン化アプリを作ることもできますし、MySQLデータベースのようなツールでトークン残高を管理することもできます。しかし、Amazon Web Servicesの問題はご存知の通りです。Amazon Web Servicesのスタッフやユーザー名・パスワードを知っている開発者はアカウントにアクセスできます。ハッカーに盗まれることもあります。これらはすべてユーザー資産を脅かします。

Web3はブロックチェーンを通じて個人やコミュニティに所有権を与えます。例えば、総量2100万のBitcoin、あなたのウォレットにある1BTCはあなたのものであり、秘密鍵を通じて直接所有・管理できます。しかしWeb3の用途はそれだけにとどまりません。最終的にWeb3はコミュニティにソーシャルメディア、ゲーム、メタバースなどオンチェーンのものの所有権とコントロール権を提供します。

もしWebアプリケーションがWeb3プロトコルになれば、バックドアが一切ないため、コミュニティが本当の所有権を持ち、プロトコルはDAOによって運営され、コードの更新も提案を通じて自動的に行われます。これはすでにInternet Computerで実現されており、SNSを使ってプロトコルを立ち上げることができます。

司会者：トークン化は私に暗号業界全体への希望を与えてくれます。暗号業界が世界の95%のまだ暗号通貨を使っていない人々に提供できる最もエキサイティングなプロダクトや機能は何ですか？

Dom：もし完全に分散化された道を進み、すべてのコードが完全にオンチェーンであれば、信頼の必要性から解放され、世界中の人々がインターネットに貢献し、次世代のインターネットサービスを創造することが本当に可能になります。

しかし、VCがいなくても？クラウドファンディングで資金調達も可能です。

私はエンジニアを30年やってきました。最初はロンドンに住み、その後シリコンバレーで10年過ごしました。シリコンバレーに行ったのは、ネットワーク効果が大きいだけでなく、ベンチャーキャピタルを得やすかったからです。問題は、同じようなプロダクトがたくさんある中で、どうやって目立ち、ベンチャーキャピタルを得るかです。

でも、もしあなたがInternet Computer上でプロダクトを構築したらどうでしょう？人々はあなたのプロダクトにアクセスし、評価し、ソーシャルメディアで交流できます。もし人々があなたのプロダクトに興味を持てば、SNS上でガバナンストークンのSwapを作成し、人々はICPでガバナンストークンを購入できます。その後、そのプロダクトとSwap金庫はガバナンストークン保有者の投票によって管理されます。

これにより信頼の必要性がなくなるだけでなく、地理的な制約も受けません。たとえ発展途上国にいても、優れたプロダクトがあれば同じように資金調達ができます。

これが私の理想とするWeb3です。私は行動の民主化を実現したいし、技術エコシステムへのアクセスの民主化を見たいと思っています。最終的には、これが大量のイノベーションと創造力をWeb3にもたらすでしょう。